お侍様 小劇場
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   “真っ赤なお祭り” 〜寵猫抄より


いよいよカレンダーも最後の一枚となり、
世間様も何とはなし、さわさわと慌ただしくなり始める頃合い。
何と言っても今年最後の一カ月であり、
毎年毎年、よくもまあ種類が尽きないなと驚くほど、
いろんなことが起きたのを振り返る話題が取り沙汰されの。
振り返るといや、春も夏も秋も変梃子りんだったこの1年だけに、
冬もまた、何だか妙な案配なのかしらと、
お天気予報士さんが苦笑をなさりのと。
そういった話題に、何とはなくの片手間に接しているのが、
こちら様、島田せんせえのお宅だったりし。
何しろ、御主の勘兵衛様は、小説家という執筆業を営んでおいでなので、
頭の中へと構築するものは、
時によって2シーズンほど先の話だったりもするお人だし。
年末と言えば、年末進行の前倒しという事情に巻き込まれるのが常のこと。
ブロードバンドの普及によるネットの拡充やら、
ワールドワイドなグローバル化とか、
昔に比べれば格段に、
世界中がリアルタイムでつながっている時代だとはいえ。
アナログ媒体はまだまだ廃れないし、
紙へと印刷された文章への愛着はそうそう消え去ることもなく。

 ……要するに

月刊誌・週刊誌・季刊誌を問わず、
年末年始号の雑誌の発行へ向けての編集作業は、
印刷・製本・出荷といった部門の業種の皆様が、
仕事納めとされてお休みへ突入なさるまでに終えないと、
どえらいこととなってしまうため。
そこへ至るための“逆算”が普段よりも前倒しになっており。
極端なところだと、

 ― 新年明けましておめでとうございます、昨夜の紅白は観ましたか?

なんて枕で始まる作品を、
まだ残暑厳しい頃合いに書いていただかないと、
到底間に合わない…なんてなお話が、
冗談抜きにあったほど。

 “まあ、勘兵衛様はその点は大丈夫なのですが。”

連載や企画を数本ほど並行して抱えていなさるものの、
日頃からも、何か降りて来たから…というノリで、
あれこれと書きだめをなさっておいでのマメな人。
時折、久蔵と遊び過ぎての時間を浪費し、
しまった依頼があったのにぃ…というケースもなくはないものの。
そこはそれ、尻を叩くのが上手な敏腕秘書殿がついておいでで、
それ以上 逃避なさってる場合じゃありませぬと、
愛らしい仔猫様をひょいと取り上げの、
もっと遊びたいと仰せなら、早く書き上げてしまいなさいましと。

 『でないと、アタシもパートに出にゃならなくなりますし、
  久蔵も、カンナ村へと預かっていただくことに成りかねませんよ?』

 『おいおい。』

青玻璃の双眸を甘くたわめての、
輝くような笑顔と ドスの利いたお声とで、
最も手痛いところへの脅しをかけるのも辞さない恐ろしさ。
(う〜ん)

  ……まま、そこまでの文言を言った覚えは、

  「これまでに一度だけ、ですよう。」(あるんかい・笑)

それもエイプリルフールに、という手合いだったのではあるが。
こんな台詞、一度でも言われりゃあ十分だ、とばかり、
勘兵衛様を例がないほど凹ませたと、
身内の皆様方へも秘密裏に知れ渡っているのがまた恐ろしい。
それがらみか、
出版関係とは言えなくもないけれど…という畑違い、
音楽系アミューズメント会社や、
某アニメ製作会社からも、七郎次へという名指しのお歳暮が来たほどで。

  一体どんなネットワークをお持ちなご一家なのやら、ですな。

そんなこんなといった、
いかにも作家せんせえならではな年末事情はともかくとして。
年末締め切りの依頼原稿がまだ片付いていない内は、
お忙しいせんせえをそっとして置きつつ、
その他の家人は着々と、年末と迎春の準備を覚書きにしたためていたりもし。

 「えっとぉ、年賀状は書きましたよね。」
 「にゃうvv」
 「そうそう。久蔵にも頑張ってもらいましたものね。」

昨年末は寅年用だったので重用させていただいた、
PCで取り込んだ仔猫の肉球写真つき年賀状が、
身内に限ってという配りようをしたにもかかわらず、
あちこちでなかなかにウケており。
ならば今年は、卯年の図柄なのでと、
ウサ耳のカチューシャをつけた久蔵の写真を取り込んだ。
写真だと仔猫のまんまという姿にしかならないが、
メインクーンの美猫さんが、
何これ?と、無邪気にも つけ耳へ手で触れてるポーズはとっても愛らしく。

 「うん。こっちの久蔵も、俺 好きだな。」
 「にゃんvv」

冬に入る前にとのお心遣いか、
仔猫様にはそれでしか とある効果の出ない毛糸の補充をと、
シチロージさんから言われてのお使い、わざわざ持って来てくださった、
カンナ村のお兄さん、キュウゾウくんもまた太鼓判を押してくださって。
大好きなぽかぽかコタツからでも、
この時ばかりは飛び出して来る久蔵に“にゃあにゃvv”と懐かれながら、
当家の年賀状を“かわいい、かわいいvv”とお褒めくださった小さなお兄さん。
ふわふわした金の髪も、まだまだ丸みのほうが強い ぱっちりとした双眸も、
色白な頬や子供の造作が抜け切らぬ小さなお手々も、
どこもかしこも久蔵と似ていて、どちらも変わらぬ愛らしさだが。
それでもやはり…ただ単に年上だからというだけじゃあなくの、
頼もしさというのか、しっかり者らしき安定感とでもいうのだろうか、
そういう堅実さも見え隠れする彼なのが、

 “ああ、こんな風にしっかり者のお兄ちゃんに、
  久蔵も育ってくれるんだろうかvv”

実は時々、鬼の副官にならんこともないながら、(余計な世話です/////)
それでも多分に大甘な、こちらの七郎次さんを、
そういう方向でもうっとりさせる、プチ大人っぷりを覗かせてくれており。

 「うわ、今年も飾ったんだね。」
 「みゃん♪」

モクレンの根方からのお越しを、どうぞどうぞと招き上げたリビングには、
この時期には恒例のクリスマスツリーが飾られており。
当家にしても、実をいや、
久蔵が加わってから“そういやウチにもあったねぇ”と、
蔵から出して来たという代物なれど。

 「カンナ村では“クリスマス”のお祝いはしないの?」
 「うっとぉ、年末年始は水分まりの神様へのお祭りしか やんないかな?」

こちらとほぼ同じ五体の、同じ理解の人々が住まうらしいが、
それでも微妙に理
(ことわり)が違うらしいカンナ村。
このキュウゾウくんが、
金の綿毛の合間に三角の猫耳を覗かせ、
お尻尾も持つ少年であることもその差異の最たるものであり。
だがだが、それを言やぁ、

 「みゃ〜うにゃんvv」
 「そうそう。
  お手々を合わせてお祈りしたり、
  水口に貼って1年間見守ってもらうお札を、
  神社でもらって来たりするんだ。」

神妙な素振りで小さなお手々を合わせる真似をする、
こちらの久蔵の所作がちゃんと、
小さな子供のそれに見え、そうだよと優しく微笑ってくれる。
こちらの世界じゃあ、カメラはおろか、人にも仔猫にしか見えない久蔵坊や。
どうして自分たちにだけ、幼い和子に見えるのかと、
もしやして、やっぱり彼は不思議な存在で、
こんなに可愛いのに、そして時に家人を気遣う優しい子でもあるのに、
それが判っているのは二人きりだったの、時々焦れったくもなったけれど。

 『儂らがそうだと判っておればいいではないか。』

どれほど心癒される笑みか、愛くるしい存在か。
なのに、写真や映像にもこの愛らしい姿が残せないなんてと、
時折たいそう焦れていた七郎次だったのへ、
勘兵衛がそんな風に宥めたことがあり。
それで収まりがついたことへのご褒美か、
小さな久蔵を自分たちと同じ姿で認められるお友達が出来、
しかもしかも、

 「あ、そうだ。
  先だってのお招きで、
  落ち葉かきのお手伝い…だかお邪魔だかしたおりの、
  写真が出来ておりますよ?」

枝々から下がった星のオーナメントの間を縫うように渡された、
小さな電球が綿の雪の下、色とりどりにチカチカと瞬き。
赤や青、緑といったガラスのボールが、
金銀のモールをその肌へ映して宝珠のように煌いている。
お膝にじゃれつく弟分を上手にあやしつつ、
そんなツリーを飽かず眺める小さなお兄さんへ、
ほらと七郎次が差し出したのが、
PCでプリントアウトした写真を綴ったフォトブックで。
わあと開いたそこには、彼や向こうの皆様とそれから、

 「にゃうみゃんvv」
 「そうそう。この久蔵には笑いました。
  もしかしてせっかく集めたのに、
  片っ端から散らかしませんでしたか?」

こっちの世界では撮ることの叶わぬ、和子の姿の久蔵が、
カンナ村で撮った写真の中では、
彼らにはそうとしか見えぬ子供の姿で 随分とはしゃいでおいでだ。
自分の背丈ほどにもなっている落ち葉の大山へ、
飛び込みたいようともがいているの、
向こうのシチロージさんが“こらこら”と抱きかかえてくださっており。

 「このあと、カンベエがこれを燃してから、
  おきびっていうのでお芋を焼いたんだ。
  そしたらね、久蔵、もうお山には見向きもしなくなったの。」

 「あらまあ。」

喰いしん坊さんですものねぇと、七郎次が苦笑をし。
でもでも、俺と一緒の猫肌で、熱いの持つのは苦手だから、
最初の1口までを、随分と往生してたんだよ?と。
それで落ち葉がどうでもよくなったんだと、
かわいらしい弁解を、当人に代わってしてくださって。

 「今時だと、そちらもお忙しいのでしょうね。」
 「う〜っと、うん。
  シチやカンベエや、ゴロベエとか、皆で冬支度を始めてる。」

今のうちに一冬分の炭を作っておかないといけないし、
雪が積もったら折れかねない木には支えの綱を張ったりもするし。

 「虹雅渓っていう、村にはないものがいっぱいの街にも、
  そうそう行けなくなるからね。
  やっぱり一冬分を買い出しに行かないと。」

と、そうと言ってから、
あっと何かしら思い出したようで、

 「そうだ、虹雅渓ではこの真っ赤のお祭りもやってたよ?」
 「おや。」
 「そうか、宗教的なものがそうも重なるか。」

驚いた七郎次の背後から、大人のお声がもう1つ重なって。
床へ座り込んでいたそのまま、
仰向くようになって頭上を見上げれば、
丁度のタイミングで、御主様がその位置へ。
ある意味で想定内の依頼でもあり、さほどハードな執筆でもなかったか。
作業用のメガネこそ掛けたままながら、
他には特に変わりようもない壮健さだと、ざっと見て確認しつつ、

 「もう終わられましたか?」

一応 尋ねれば、メガネを外しつつ是と頷いた勘兵衛、

 「その真っ赤な祭りというのは、
  年末より少し早い晩に終わるのだろう?」

これはキュウゾウくんに訊いており。

 「うっと、うん。
  白いお髭の男の人がね、
  居合わせた子供にお菓子を配ってくれてた。」

自分もたまさか、丁度その日にシチロージと街にいて、
どうぞと、あめ玉とクッキーとを詰めた小さな袋をもらったそうで。
何で?とシチロージに訊いたので、
その日が当日だったらしいというのは間違いがないのだとか。
そんなやり取りの間中、

 「みうみゅう。」

お仕事の間中、書斎へ近づけなかったせいもあろう、
小さな久蔵が手を伸ばして来るのへ応じるように。
手前にいた七郎次の隣りへと腰を下ろしつつ、
勘兵衛がその腕をど〜らと向けたれば、

 「みゃうにぃvv」

ふくふくの頬へ、
尚の甘い笑みを頬張ってのまろやかにし、
軽々と抱っこされての一番最初にやらかしたのが、

 「これこれ、どういうお仕置きだ。」
 「ありゃりゃ☆」

天使のようなだったのが豹変し。
紅葉のような小さなお手々が、
ぺしぺしと…不器用そうで単調な一本調子ながらも、
それでも当たれば痛かろ“しっぺ”とばかり。
御主様のお顔へと何度か当てられており。
慌てて七郎次が制止をしたところが、

 「シチと二人だけでのご飯が、
  6つの2日も続いたぞって怒ってる。」
 「おやまあ。」

キュウゾウくんが通訳してくれたこと、
事実なだけに…大人たちとしては面目なくて。

 「すまなんだな、久蔵。」

ぷいっとそっぽを向いてしまった真ん丸な頭を、
くるんと包み込める勘兵衛の大きな手。
それを ぽそんと置いてやっての、
あらためて よしよしと撫でれたば、

 「…みゅうにぃ。」
 「判った、って。」

ちょっぴり不貞たように視線が逸れていたのがまた、
何とも一丁前でかわいいじゃあありませんかと。
くうう〜〜〜〜っと萌えてしまったおっ母様お兄さんに代わり、
これもまたキュウゾウくんが、きちんと翻訳してくれて。


  ここだけは何とも穏やかな師走の空気、
  窓からの陽をうけて、
  ほかほかと温かく流れているようでございます。








    おまけ


あちらの世界でも、
真っ赤なお祭り、クリスマスもまた、どうやら存在しはするらしいけれど。
カンナ村では、現地の神様への祀りもあっての、
2つの神様がかぶってしまっちゃあ、いけないのかもしれませんからと。
七郎次がキュウゾウくんへと、
なかなか丁寧な作りようにて用意してくれていたのが、
アドベント・カレンダーならぬ、もう幾つ寝るとお正月カレンダー。
31日までの日めくりのようなもので、
二つ折になった額縁みたいな箱を開いて、
その日その日の“小窓”をミシン目に沿って開けたれば。
キャンディーだったりトリュフチョコだったり、
七郎次と久蔵とで焼いたクッキーだったり。
あるいはツリーのオーナメント、
キラキラするお星様のチャームや、
ガラスの嵌まったブローチ、
子供の手にも隠せそうな小ささのハーモニカなどなどと、
小さな贈り物が1つずつ入っていて。
日によって少し大きめなのもある小窓には、
七郎次が本体を作り、久蔵がスタンプで模様をつけたガマグチポーチや、
久蔵の拳くらいの大きさなれど、
ふりふりと手で降ると中で雪が舞い踊り、
中のツリーにチカチカと小さな光まで瞬く仕掛けの置物。
大みそかの小窓には、
小ぶりな名刺ほどの大きさながら、
表はカンナ村のご家族、
裏にはこちらの世界の3人(但し、久蔵の姿は微妙に合成)の
写真を封入したプレートと、
勘兵衛の指南の下、久蔵が頑張って書いたらしいお手紙が。
お手紙には、
来年も遊んでねと、モールがのたくるような線で書いてあるそうで。
当然、まだそこまでは知らない小さなお兄さんが、
わあと毎日喜んでくれたらいいね、
最後まで開け終わる日が早く来るといいのにと、
カンナ村でもわくわくと日を過ごしておいでだったら嬉しいねvv
それを思うだけで、こちらのおちびさんもまた、

 「ふな〜ぁうvv」

思い出し笑いなんかしちゃうほど。
そしてそして、
そんなお顔を七郎次に見つかるのがちょみっと恥ずかしいか、
コタツの布団にぱふりと突っ伏して誤魔化すところが、

 「〜〜〜〜〜〜っ。////////」
 「判った判った。」

なんておマセさんになって来たことかと、
言葉にならぬまま、勘兵衛様の二の腕を掴み、
やっぱり萌えてしまうお兄さんなのも相変わらずだそうですよ。






   〜Fine〜  2010.12.06.


  *師走の忙しさが、
   このお家は微妙に違うんじゃないかとか思いまして。
   この年末も温泉にお出掛けなのかなぁ。
   でもその前に、
   新年号の原稿を早々と仕上げにゃならぬ、
   年末進行という地獄も待っているんじゃあ…とか。
   (本当に大変なのはむしろ編集さんだそうですが。)

   そして…日頃は余裕の勘兵衛様でさえ、
   仔猫様もご立腹の、一応は忙しかったらしいです。
(笑)

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メルフォへのレスもこちらにvv


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